前回は、スープストックトーキョーの商品開発などを行っている桑折敦子さんが愛媛を訪れ、愛媛の柑橘の食べ比べなどを体験しました。後編では、大洲市にある醤油・味噌の老舗店「梶田商店」への訪問と、「農業をもっとおしゃれに」をテーマに農業の6次産業化に奮闘する、楽農研究所・菊地義一さんと愛媛の食に関する対談も行いました。
桑折敦子さんプロフィール
1994年短大の食物栄養科を卒業後、食品工場の栄養士などを経て、飲食店の立ち上げやメニュー開発に携わる。2004年よりスープストックトーキョーの商品開発を担当。スープの開発及び、機内食の開発に携わる。2017年より独立し、食品メーカーの商品開発やレストランの商品開発、グルメツアーや料理教室なども開催。2020年より、地域に根ざした新たな学びとその実践を進めるプロジェクト「熱中小学校」の講師として活動中。
醤油・味噌の店「梶田商店」
続いて大洲市にある梶田商店を訪れた桑折さん。この場所にお店が建ち、醤油醸造業に事業を集約したのが、明治7年。現在は、13代目梶田泰嗣さんが醤油蔵を営んでいます。梶田商店で販売するすべての醤油は自社天然醸造。当日は麦味噌の仕込みの真っ最中でした。
梶田:これは麦麹です。10回以上噛んでください、麹の味が感じられて美味しいですよ。うちの味噌は麹歩合が非常に高いので、甘味料などを加えなくても十分甘いです。どんな麹を使うか、麹歩合と作り方によってお味噌の甘さ、辛さ、旨味の強さをコントロールしています
お味噌には特性があって、大豆は水の中に浸してあれば重量が2倍になるので、原料の価格を抑えることができるんです。でもうちの麦味噌は非常に麹歩合が高いので、ほぼほぼ大豆は使っていません
梶田さんに醤油製造の現状を教えてもらいます。
梶田:実はほとんどの醤油屋さんが醤油を買っていて、自社醸造をあまりしていないんです。今1200社の醤油屋さんがあると言われていて、そのうち100%自社醸造してるのは1割あるかないか。だからこそ僕らは本当に今の醤油はどうやって作られてるのか。その背景を伝えたいですよね。「食」が正しく理解されて、広がってもらうことが一番ありがたいので。 例えばうちの醤油はなぜそんなに値段が高いのかと言われるんですよ
桑折:みんなお醤油は例えば298円で買えるもの、と思ってしまってますね。でもちゃんと作り方見たら、そりゃそうだよね、と。人がこうやって手間暇かけて作ればそうなるよねって
梶田:例えばうちの場合は愛媛の大豆、小麦を仕込む時の新物を使っています。うちの丸大豆の醤油は、大豆も小麦もすべて生産者がわかっています。すべて杉桶で天然醸造、食品添加物を使わないんです。そんな醤油って流通している商品の全体の中で何%あるのか、多分1%も無いでしょうね。もちろん、だから美味しいのかというのはまた別の話ですが。お客さんの中には、原材料の高騰で、いつ値上げするの?早く値上げしていいよ、って言ってくれる方もいるのですが、少数派です。やっぱり高いと言われるし、実際梶田商店の丸大豆の醤油の販売先は愛媛県内で5%も無いんですよ。ほとんど県外に行くのは残念なんですが
梶田:甘い醤油は基本的には、甘味料を入れない限りありえないんですよ。原材料が大豆と小麦と塩だけですからね。実は醤油は裏面表示を見ただけでは、添加物を加えているかわからないんです。天然醸造と書かれていなければ、一般的には諸味に温度管理や酵素添加を行い、醗酵・熟成期間を短縮させて造られています。一般の方にはとても分かりにくいと思います。 塩分にしても、一見梶田商店の醤油の方が、塩分濃度が高かったとしても、旨味の伸び方が全然違うから、他社のものが大さじ1杯で料理が決まるところ、うちのものなら大さじ2分の1で決まることもありますよ。結果、塩分摂取量はうちのを使ったほうが少ないという。パーセンテージだけの問題じゃないんです。
料理を美味しくしたいときにはまず食材をいいものにしたらいいと思う人も多いですが、でもその前に調味料を良いものに変えたら断然、それだけで同じ食材でも味が変わりますよ
「食」に関する正しい知識が広がることを切に願う梶田さん。スタッフジャンパーの背中には梶田さんたちの醤油作りが細かく書かれています。
さて梶田商店には、醤油以外にも様々な商品が取り扱われています。
梶田:なんでこんなに有機野菜を売ってるの?と聞かれますが、うちに来たらいいものがあると知ってもらえるきっかけになったらいいなと思っています。セレクトショップみたいな感じになりましたね。ワインもナチュラルワインしか扱っていません。来店客は地元の人が3割。愛媛在住だけど市外の人が3割、4割は愛媛県外の人です。わざわざ来た人が醤油と味噌だけいいものに切り替えたところで、他の食材はどうなのか、と思いまして
と、そこにデンマークから梶田商店に、発酵を学びに来ているアナさんが現れました。今日は研修のお礼にスタッフ全員分のおいしいまかないを作ってくれたとか。
アナ:まかないにはここ(梶田商店)の調味料を使ったんです。調味料が美味しかったら料理下手でも美味しくできますね
桑折:デンマークといえば、レストランの調理人が発酵を学びに来て、逆輸入のような形で料理を提供していますよね
梶田:そうです。実は世界的に有名なレストランだったNoma(ノーマ)に従事していたラース・ウィリアムズさん、Nomaのメニュー開発責任者をやっていた彼がNomaを辞める前に、麹の作り方を教えて欲しいと、うちに来ていたんですよ。その後、エンピリカルという会社を立ち上げて、ウイスキーを作ったりして
アナ:エンピリカルとは実験的な、という意味を持っているんですけど、「味」の会社ですね。お酒だけを作るための会社ではなく、味の実験をしています
梶田:ラースさんがうちに来たのが2016年です。2018年にここら辺が西日本豪雨の被害があったのですが、その時にすぐ彼は自分の将来の孫のために仕込んでいた樽から2ダース分のウイスキーをボトリングして、それをすぐ日本に送ってくれて、これをなんとかお金に変えてくれと。2日間チャリティーイベントをやって、売上が200万円ぐらい。100万円ぐらいは大洲市に寄付してくれたんですよ
アナ:Nomaは色んなところで発酵を勉強してから、レストランで料理を提供していたんですよ。ところで皆さんは普段、何をしているのですか?
桑折:私は基本的にはメニュー開発やワークショップの仕事をしています。今感じているのは、食についてもっと伝えないといけないなと。みんなその選び方がわからないんですよね。なぜ今この時期にこれが安いのか。時季にたくさん取れるから安いのか、輸入だから安いのか、何で安くて、何で高いのかというのがみんなわからない。ただこれはこのぐらいの値段だろうという
梶田:アナは醤油作りにうちに勉強に来ているだけじゃなくて、教育者になって何か伝えていきたい。食はすごく大事な問題だし、環境問題にも取り組みたいという、そういうところがすごく素敵だなと。発酵をもっと知りたいという探究心はもちろんですが、知らないことに対して何も言えないのは嫌だというから、うちにおいでと言いました。将来お味噌や醤油を作るわけでもないから、うちに来る必要はない、と普通は思いますが、でもちゃんと知ってもらって、アナが伝えてくれればそれはいいことだと思います
梶田商店の隣には食のセレクトショップも。
伝統的な木桶での醤油作りが注目されています。梶田商店にも7年前に新調した杉桶がありました。
梶田:うちも木桶を使っていますが、メリットだけじゃなく、デメリットもあります。それを両方理解した上で、うちのスタンスに合わせて使っています。元々日本にあった液体を貯めるものといえば、桶か陶器ですね。陶器で大きなものをなかなか作れないから、昔は桶だったわけです。それが一番自然な形ですよね。
自然なもの作りをやっていきたいから、品質どうこうよりも杉桶を選んでいます。本当は地元の山の杉の木で桶が作られて、それが循環していくのが一番理想的ですが、難しいですね。ステンレスやFRPのタンクはうちにもありますが、それより杉桶の方がいい点は原料の来歴がわかることです。本当にナチュラルなものはどれか問われた時の答えですよね。取り扱いは大変なんですよ。値段もしますし
桑折:杉桶は新樽というか、新しいときと、何年か使った後の仕上がりが・・
梶田:違いますね。新桶を購入して使った一番最初の印象は、やっぱり木の香りがついていることでした。新桶で作った商品には「新桶仕込」という表示をしてます
桑折:どちらの方が好きですか
梶田:もちろん古い方です。でも7年間使ってきて、最近木香は段々と取れてきました。次に新しい桶を買ったときには、絶対にこの作業をしてから使う、ということも学習できました。 使用前は相当ナーバスになって、木香が移ることを予想して、使う半年ぐらい前から高濃度の食塩水をずっと溜めたりしていました。醤油は水ではなく塩水で仕込みますから。このために何トンと塩を使ったのですが、醤油の仕上がりの香りは気になりました
桑折:最近台湾のウイスキーでは、樽を最初に梅酒やライチのお酒に漬けて、その香りを付けてからウイスキーを作って、高く売れるんですよ。塩を捨てなきゃいけないくらいなら、その後醤油に良い香りが付く何かがあればいいですね
醤油作りを通じて、話は日本経済を取り巻く環境や消費者行動についても及びました。 梶田さん、ありがとうございました!
菊地さんとの対談
最後に内子町やしまなみ地域を拠点に、農家の販路拡大や6次産業化に取り組む株式会社楽農研究所の菊地義一さんと対談を行いました。菊地さんはジャムなどの加工品を手掛けています。
桑折:柑橘を加工して、チャツネにしてカレーにいれるのがいいんじゃないかなと思います。使用用途を購入者にちゃんと説明して。仕上げに大さじ一杯入れますみたいな。それで売れるのでは
菊地:すぐやります
桑折:劇的においしくなりますよ。日本で早かったのはイチジクのチャツネ。和歌山産のものを貯めて使用して。イチジクは移動で日持ちしなかったり、台風の前などは落ちる前に採ってしまうので。それに赤ワインやスパイスを加えて煮て。売り場でもスパイスの隣にチャツネがあったら売れると思います
菊地:最近はレモンカードを作ろうとコラボしているところなんですが。チャツネは知らなかった
桑折:ジャムと同じように作って、多分ジャムと同じぐらいまで糖度が上がれば日持ちも、殺菌も大丈夫なので。柑橘系は鶏肉とか豚肉とかにも合うと思う
さっそく、菊地さんの柑橘の加工商品のアイデアをいただきました。菊地さんはキウイ農家でもあります。
桑折:ところで愛媛はキウイも生産量が多いんですよね?
菊地:日本一ですね。愛媛県は柑橘のアピールに力が入っていますけど、実はキウイも多いんです
桑折:しかも安かったですね。キウイもちょっと難しいのですが、少しだけジャムとかマーマレードと、そこにビネガーとオリーブオイルを入れたらもう美味しいドレッシングになります
菊地:実はレシピを自分で作っているのですが、そこがなかなか難しいんですよ。消費者のニーズもなかなかわからない。模索しながら作ってます
桑折:東京を行き来する人に聞くか、私の場合は自宅で食事会をするんです。例えばスープの開発とか、仕事ですることもあるのですが、その食事会がマーケティングみたいなものですね。みんなこれを意外と食べるな、とか。 でもレストランのメニューだと、食べたことがないものはやっぱりオーダーしないんですよね。だからそういうものは飲食店だとおまかせメニューに入れないと出ていかないんだなとか、出せば美味しいと思って食べるので、オーダー制にしないとほうが良いだとか、そういうことを自分でやりながら考えています。
私は友人周りで「豆部」活動をしてて、豆料理をたくさん作るんですよ。例えば豆のスープなんて地味なので、メニューにあってもみんな頼まないんですよ。ですが家で作るとみんな美味しいと言うわけです。 そういうメニューはスープの他にも結構あって、イタリア料理のシェフは、皆イタリアに修行に行ってるんです。大体イタリアは豆の料理がすごく多いですよ。で、修行先で豆の料理がすごく美味しいことをシェフは知ってるんですが、日本で自分の店のメニューに入れても全然売れないから、外してしまうんです。私たち「豆部」がお店を貸し切って豆料理ばかりを作って出すことをすると、シェフはびっくりしてますね
菊地さんは農家を応援しようと6次産業化にも取り組んでいます。
菊地:結構地方も回られるんですか?昔、盛んに6次産業化が言われていましたが、大体の地域で頓挫していると感じます
桑折:助成金を使って加工場を作ったりとか、みんなアイデアが同じに感じますね。成功事例を真似するというか。例えば野菜が獲れたら、保存できるように乾燥する・・いや、そんなに乾燥してパウダーにしたのをみんな使うかな?みたいな。 でも今日みたいに柑橘を食べ比べたら、欲しくなるじゃないですか。食べ比べのツアーをやった方がいいんじゃないかなと思ってます。食を体感するツアー。どこに行って何を食べたらどんなに楽しいか、という。ホテルでは注文できないメニューを、どこかキッチンを借りてみんなで作って、加工して持って帰る、とか。
フィンランドでのツアーでは、キノコ狩りをして、森の小屋の中でみんなでキノコ料理を作って、途中買ったいろんなクリーム系ヨーグルトやサワークリームを一通りパンにつけて食べたんです。人気がありましたね。ツアーの中で市場に行ってみんなで買い物して、みんなで料理して食べるのも。ベリー摘んでジャムにしてお土産にする、とか。要は買えないものがお土産になる。
こういうツアーの参加者というのは、「ちょっとこの人情報をいろいろ知ってて、みんなの憧れ」みたいな人が多いので、他への影響力があるんですよ。それで参加者がさらに増える。加工だけするとか、パッケージ化された商品も頭打ちというか、どこにも同じようなものがあるし、そろそろ別のことがいいのではと思います
菊地:思い出作りではないけれど、そんな感じですかね
桑折:今の若いお母さんたちは、子供にはいろいろ体験させたいっていうのがありますし、自分たちで収穫したり、自分たちで何か物を作って帰るのが良いのかなと
菊地:内子町は観光資源があるので、観光農園もありますし、うまくマッチすればいいですね
桑折:観光パックは、何かに特化しているのがいいですよ。人によっては美術館も見ない、神社仏閣も関係ないという人もいるし、逆に神社仏閣だけが興味ある人もいるので、まとめないほうがいいですよね。そういうツアーもあっていいんですけど、何かに特化した方が引っかかってくると思うんです。選択肢は他にいっぱいあるので、何かにフックに引っかからないと選ばれないんですよ
菊地:私は内子のホテルの役員もしているのですが、お客様からは体験が欲しいとよく言われます。宿泊にもつながるので是非アイデアを出したいです
桑折:柑橘農園で摘んで、ジュースなんかを帰ってきて自分で作るとか。なんならラベルも自分で簡単にお絵かきしたものがシールで出てきて、それを貼って自分の商品みたいになるとか
菊地:まだまだいいものが愛媛に埋もれていると思います。特に南予は一次産業がメインで、そこを掘り出したり、人材も売り出したいですね
話題は菊地さんの加工場に移ります。
菊地:ところで今困っているのは加工場の問題。依頼が多いものの、扱う食材で衛生上の許可の問題がなかなかクリアできなくて
桑折:作りたい商品と加工場がマッチングしないことはよくありますね。昔の工場で色んな加工の依頼を全部受けた結果、小さな工場の中にいろんな設備ができて、全部少しずつできるようになってるところもたまにありますが、結局大量に作れないから、コストがかかるんですよね。結果続かなくなってしまう。 私は大体ソース系を発注することが多いですけど、工場を知っていて、何がネックになるかわかっているので、これを作るならこの工場、これはここ、と判断できます。どんなに商品が美味しくても、工場が出来なかったら意味がないんですよ。でも工場を知らない人は、知ろうとせずにこれをやりたいと言い続けるだけなので、結構大変ですよ
菊地:工程上、作る量が変わると味も変わりますよね
桑折:味も手順も変わりますよ。例えば、ほうれん草500キロを1度に茹でると、お湯を沸かすのにすごく時間かかるし、1回火を止めてからも加熱が続いて、緑が黒くなっちゃうんです。大量生産だからこその手順もあります
菊地:工場の問題は愛媛県内でも多くあると思います。商品開発はできるんだけど、例えば料理のできる方が作ってくれました、これでいけるだろうと、簡単に言ってくれるんですけど、それを大量生産となると難しくて。実際にはリスクがあって、結局それが商品化にならない。それを理解してくれる人がなかなかいないんです
桑折:シェフが工場に出入りしていて、ネックが何かわかっていれば良いんですけどね。ずっと試作品とサンプル作りをしていて、お互い嫌になってしまう。工場に合わせたメニューにするのか、大量生産はできないと割り切るか。工場の中にどの設備があってそれは設備投資してまでも作りたいものなのか、どうか
菊地:実際に作ったけど、じゃあ1800円のレトルトカレーが売れるのかという
桑折:なんでできない?と聞かれ、作れなくはないという。コストが上がっていいですかと聞いて、やっぱりその値段ではダメだとなるんですよね
菊地:桑折さんと一緒に工場を回りたいですね
桑折:この機械があるんだったら、これができるなとか、判断できますよ。例えば袋に充填した後、殺菌するのかしないのかとか、その後フリーザーがあるのか無いのかとか、そういうことで全然変わってきますね。常温流通させたいのかどうか、何がマストなのか
菊地:やってみた結果違う工場をもう一度探すのに時間かかるというのが現状です
桑折:そこを理解しているの人は全国でも多くないですね。コロナ禍になって、商品化の話がすごい多くありました。依頼を受けるんですが、その前に売り先は決まってるのかなと。元々ファンがいるブランドはいいんですけど。みんなが買い支えようという気がありますから。でもファンも元々いないのに商品を作ったところで、それはどこに行くの?と。作ったところで工場もかわいそうです
菊地:6次産業化の失敗はそれですね。自己満足で、生産側の都合で余っているからトマトケチャップを作ったらいいんじゃないか、とか。出口を考えずやってしまって。
小さいものも含め、日本全国各地方に食品工場がありますよね。何が得意なのかわかっていたら、この商品開発はここに頼めばすぐできるという仕組みがあればいいですね。南予は特に農産物や魚介類が多いだけに、商品化がたくさんできる。時代の変化が速く、ニーズに合わせていかないといけないのですが、商品開発に2年も3年もかかって、ブームがもう終わってしまうんですよね
桑折:ブームにならない商品を開発するのが一番いいんです。じわじわちゃんと美味しくて口コミで広がっていくようなものが、最終的には強いと思います。ブームで売れたからと生産量を伸ばして、工場設備を買い足して、その頃にブームが終わってるので負債だけが残るというパターンがありますよね。 地道に着々とやるのが良いのと、道の駅や農産物直売所の隣に小さな加工場があればいいのにと思います。一般の人でも試作できるような。一般人は商品化といっても、食品衛生法のことがすぐにはわかりませんよね。保健所と連携して、これはこの表示が必要と教えてくれたり、原材料を書いて入力すればシールが出てきて、それを貼れるとか。
人口が減るのに、同じものをたくさん作ってもしょうがないので、だったら個性のあるものを個人で作って、個人で道の駅に出すことができればいいですね
菊地:私たちの加工場も貸し出しをしています。一農家がそれをやろうとすると負債を抱えないといけませんから、試しに作ってみて、軌道に乗れば自分たちで加工場を作ってもらうという
桑折:これからの加工場はその方向に進む気がします。大きな工場でたくさん作るのはもう時代じゃないというか
菊地:素材はあって、技術があっても、レシピや消費者のニーズを考えるマーケティングがない。一加工場がそれを全てやるのは難しいから、いろんな方とコラボしながら増やしたいですね
桑折:先日の商品開発ワークショップでは、これは誰を幸せにする商品なのか、誰が喜ばせたくてそれを作ったのかをまず決めないからどっちつかずのことになると話しました。 まずそういう座学をやってから、次のイベントで出すメニューを考えるというグループワークをやったんです。でもそれは結局自分が見たことのあるものでしか想像が付かないんですね。マーケティングの企画的なことは外に任せた方がいいと思います
菊地:元々うちの会社を作ったときに、元農家なので生産現場は知っている。でも加工と、営業、売り場を探すことは分けないといけないと判断しました。加工場には私はこれが作りたいと来られるんですが、それが果たして売れるのかどうかわかりませんが
桑折:大量生産でなければ良い面もありますよね。これからの時代はそっちだろうなと。大手メーカーでさえそちらに舵を切り始めてますね
菊地:少量の生産でもアイデアや発想で埋もれているものを形にできればいいですね
桑折:海外の味を知ってきていますよね。この地域の気候だったらこの国のここに近いから、そこの野菜を作ってみるとか、その方法もありますね。色んな国の料理を作りたい時に材料を探す人もいますし
菊地:最近ここら辺では、イタリアの野菜を作ろうという動きが特に若い方が中心となってあります。ただ食べ方を知らないパターンで売れないんですよね
桑折:東京のレストランにも箱詰めて送っちゃうのが一番いいですね、いろんなものをミックスして。要は市場に出そうとすると、箱の中に同じ規格のものを入れなきゃいけないじゃないですか。個人のレストランはそんなにひとつのものをたくさんいらなくて、むしろいろんなものが入ってて欲しいんです。その代わり頻繁に送る必要がある。食べ方はもう、食べさせるしかないですね(笑)
菊地:ズッキーニですら定着したのが数年前ですよね。最近、知合いの農家さんトレビスの栽培を始めたみたいです
桑折:色んなところでこの食材が余っているから、スープに使えませんかと提案いただくんですが、ニンジン、玉ねぎ、ブロッコリーとか近くにもあるものだと、わざわざ遠くから買う理由がないんですよね。よっぽど糖度が高いとか何か特徴がない限りは。いくらたくさんあっても、それを輸送して関東近郊で加工するので、他でいくら美味しいブロッコリーだと言われても、都心近くにもあるんだよな、と。他に無いものだとそこで買う理由にはなります
菊地:作りやすいものを作ってしまうんですよね
桑折:淡路島では玉ねぎ農家さんが高齢化して、玉ねぎは重いからレタス農家に変わっていて、玉ねぎの生産量が減っているそうですね。加工場では他地域から買うこともあるそうで
菊地:それだけ需要があれば、若者が玉ねぎで農家をすればいいのですが
桑折:北海道産のかぼちゃも減っています。この例はたくさんありますね。やっぱり重いから農家がやりたがらない。重い野菜で単価が安い野菜は
菊地:加工品を作り出してすごく思うのですが、結局原材料が無ければ何もできないなということなんですよね
桑折:これからは本当に原材料の争奪戦になりますよね。産地の近くにいないと、食べ物がなくなるかもしれないと思います。自分が生きてる間にそうなるかも、とまで心配ですね。 でも昆虫を食べるのは極端だなと思っています。その前に豆があるじゃないかと。豆から出た芽が食べられて、つるになってさやも食べられて、中の身も食べたり、乾燥させてまた芽が出て。こんなすごいものはないですよ(笑)
加工場の悩み解決から、地方での「商品開発あるある」まで幅広いお話を聞くことができました。ありがとうございました!
桑折さんが感じた“まじめ”
今回の旅で桑折さんが感じた「まじめ」について聞きました。
桑折:どこにでも「変態」がいて面白いなと思いました。突き詰めてその先に面白さがあるというか。柑橘の梶谷農園さんは、売り上げだけを考えたら人気のあるものだけをたくさん作る方が効率いいと思うのですが、でも多分自分が好きだからやるところもあるんだと思います。やっぱり楽しんで仕事やってる人はいいなと。そういう人がいるところって後輩が育っていたり。
醤油屋さんの梶田商店さんもしかり。使命を持ってやってる人たちがいるってことは、この先まだ未来は明るいな、というのが感想です。
最後に加工場に行って思ったのは、どこの地方も悩みは一緒だなと。新鮮なものはあるけど、それをどうやって欲しい人に届けるかというところで悩まれていて。ただ、みなさんその地方にじっとしていても、何も見えてこない。人が何を欲しがっているのか、商品のアイデアも。アイデアは急に生まれるものではないですし、いろんなところを歩いてみた方が良いですね。
外国で何か学んできたとか、外の世界を見てきた人は強いなと思います。誰かに言われてはっとしたのは、アイデアの数は移動距離に比例する、と。すごく納得しているんですよ。私も相当見てきたし、相当旅をしたので。見てこなければアイデアも湧いてこない。アイデアは今まで見てきたものの組み合わせで出てくるもので、愛媛に限らず、地方でもの作りをしている人は、もっと外に出ててもいいかもしれませんね。
結局、自分の開発商品を食べている人が喜んだり、とか、何か物が出来上がったときに誰かが喜んでいる顔が思い浮かぶことは、進むのが早いと思います。それがないまま進めていくと、着地点が無い、みたいなことになりがちですね。何をやるか誰が喜ぶのかを考えるとことが重要かなと思います。
まじめ、ですか。誠実さがあれば、ちょっと不真面目でもいいのかな、と思います。 まじめさを履き違えると堅物で面白くないですよね。ちょっと悪ふざけするくらいのほうが面白かったり、楽しいことができたりします。基本的に美味しいものをただたくさんの人に食べてほしいとか、ただその想いさえあれば。
それと、他人との違いを面白がれるぐらいの余裕があった方がいいよね、と思います。 ちょっと人と違うことをやると、あの人違う、何か変わってる、と、田舎に行けば行くほど、そう思われがちだなと。せっかく面白いことをやってやろうと思ってきた人を潰しがちですよね。その違いを面白がったり、その人の良さをうまいこと使ってやろうぐらいに思う方がいいのかなと。せっかく今IターンとかUターンとかいろんな人が増えてますしね
ありがとうございました!