
四国中央市の人と食材のご縁が紡ぐ、40年愛される味
山口里の店
世代を超えて通いたい、ほっこり昭和レトロな食事処
こんにちは!和食と聞くと心躍るまじめしライターの堀内ゆかです。今回は、愛媛県の東端、製紙業が有名な「日本一の紙のまち」として知られ、書道パフォーマンスの「書道ガールズ」が生まれた街としても注目される四国中央市にやって来ました!
思わず目を惹く和モダンな外観で出迎えてくれたのは、創業間もなく40年を迎える「山口里の店」。和の落ち着いた佇まいに、「中に入ったら、どんな素敵な時間が待っているんだろう?」と、ワクワクする気持ちが自然と湧き上がってきます。
おばあちゃんの家のような昭和レトロな空間
一歩足を踏み入れると、むき出しの梁と漆喰の壁に囲まれた、どこか懐かしい雰囲気の空間が広がります。壁一面の大きな窓や趣ある円形の窓から光が差し込み、開放感あふれる広々とした店内です。
足を伸ばしてくつろげる座敷のほか、テーブル席も用意されており、家族連れや友人同士、カップルなどさまざまなシーンでゆったりと食事を楽しめます。座敷のスペースはゆったりと広く、小さなお子様や赤ちゃんもよく来られるそう。
店内を見渡していると目に入ってきたのは、かわいい木彫りの人形たち。よく見ると、店内の至るところでインテリアとして組み込まれています。とっても気になったので、店主の山口さんに聞いてみました!
堀内:木彫りの人形がたくさん置いてありますが、お知り合いの作家さんの作品ですか?
山口さん: そうです。瀬戸内生まれの作家、たなかあつしさんの作品です。30年近く前、知人にたなかさんの作品を紹介され、見た瞬間に一目惚れしました。昭和をモチーフにした作品で、当初は作品展をお願いしたいと思いながらもなかなか言い出せず、購入してから10年後にようやく店内に置くことができました。
堀内:すごくお店の雰囲気にマッチしていますね。絵も雰囲気があってとても素敵です。
山口さん:実は、絵はパズルになっているんですよ。絵の中に木彫りの人形をはめ込んでいるんです。たなかさんはこの独自の手法を自分のモチーフにしたかったそうです。
堀内:本当だ!気づきませんでした!
店内にある小さな保管庫を見せていただきました!そこにはたくさんの心温まる作品たちが。実は昨年、亡くなられたというたなかあつしさん。たなかさんの奥様から作品を引き受けて、季節ごとに展示する人形を替えているそう。どんな作品が飾られているか楽しめるので、足を運んだ際はぜひチェックしてみてくださいね。気に入った作品は、お店で購入できるとのことです。
テーマは「里ばあさんの手作り」
店内をじっくり堪能した後は、人気のメニューをいただきました!
まずは、豆腐ぎょうざ定食をいただきます!
毎日山口さんが手作りしているという豆腐ぎょうざは、同じ四国中央市にあるお店から仕入れる豆腐と、芋と片栗粉で仕上げた皮を使っており、外はサクッとした食感。中はジューシーで、一口食べるごとにやさしい味わいが口いっぱいに広がります。
珍しいこのアレンジは、豆腐の仕入れ先の方が提案してくれたのだそう。
この豆腐ぎょうざと相性抜群だったピカピカの白米は、山口さんのご友人が、四国中央市の金田町にある畑で作られているもの。一粒一粒に旨みが詰まっていて、思わずおかわりしたくなる美味しさです。
そして今回は、味噌汁を看板メニューのだんご汁に変更しました!野菜だけでなくえびや餅まで入った具沢山のお汁で、とってもやさしい味わい。その味の秘密は、地元のおばあちゃんが作る麦味噌にありました!
味噌は季節によって味が変わる繊細な食材で、なかなか味を安定させるのが難しいそう。しかし、おばあちゃんの作る味噌は、年間を通して安定した甘みのある味わいを提供してくれるので、どの季節に訪れてもほっと安心できる美味しさのだんご汁を味わうことができます。
おばあちゃんの作る麦味噌は、山口里の店でのみ購入が可能です。
続いていただいたのは、子どもにも大人にも人気の孫弁当!フルーツたっぷりで、おばあちゃんが孫に作る愛情たっぷりのお弁当です。
自家製の卵そぼろと肉そぼろは、しっかりと味がついていて美味しい!鶏肉にこだわっている精肉店から取り寄せた、脂ののったミンチを使用しているそう。それは美味しいはずです!
肉団子は昆布出汁と鰹出汁で煮込まれた和風の味付けで、しっかりと味が染みています。さらに、フルーツもたっぷり添えられており、見た目も華やか。ついてくるラムネが、懐かしい子どものころを思い出させてくれます。
最後にいただいたのは、里ばあさんのおもてなし料理「里定食」。お重で運ばれてくるスタイルで、季節ごとに変わる炊き込みご飯が楽しめます。夏にはアサリの炊き込みご飯になるなど、全部で4パターンが用意されているそうです。
今回は秋の始まりに合わせて、きのこの炊き込みご飯!きのこの旨みがぎゅっと詰まった出汁がとても美味しくて、一足早く秋を感じられました。
その他にも、出汁がじんわりとしみた煮物やプリッと美味しい甘えびの刺身など、素朴で心のこもったラインナップに、ほっこり。
抹茶は、四国中央市の特産物である新宮茶を使った抹茶で、山口さんが点ててくださいました。実は山口さん、お店を立ち上げる前に抹茶の作法を自ら習いに行かれたそう。その思いを継いで、今ではスタッフ全員が点てられるようになっているそうです。
一緒に出された和菓子は、「着せ綿」といって菊の花に白い真綿がかかった様子を表現した繊細な上生菓子です。
この上生菓子は四国中央市三島の和菓子店から取り寄せているもので、「着せ綿」のほかにも「秋の風」や「稲穂」など、秋を感じられる上生菓子が揃っており、季節の移ろいを目と舌で楽しむことができました。
四国中央市の味と人を大切にする山口さんの想い
四国中央市の食材をふんだんに使った、やさしい料理の数々を堪能した後は、お店に込めた想いやこだわりを山口さんに伺いました。
堀内:店名の由来がとても気になっているんです。
山口さん:「山口里ばあちゃんがいた」という物語をコンセプトにして、店名をつけました。昔はトメやサトといった二文字の名前が多く、店名を考えるときもいろいろな候補が挙がりました。最終的には、故郷の“サト”という言葉の響きが美しいということで、『里』と名付けました。
堀内:素敵なコンセプトですね。そのコンセプトにはどういった想いが込められていますか?
山口さん:40年近く前に山口里の店がオープンしました。当時は洋風スタイルが流行していましたが、その流行の中で「やっぱり日本の文化や生活様式を大切にしたい」という思いから、このコンセプトが生まれました。和食への強い思い入れも込めています。そしてお店には、孫や子どもの喜ぶ顔が見たい一心でおもてなしをする、里ばあちゃんの温かな笑顔が息づいています。
堀内:店内に入った時からその温かさに包まれました。来られるお客様はどういった方が多いですか?
山口さん:県境にあるので、香川や徳島、高知からドライブがてら来られることが多いですね。小さなお子様連れの方が多いです。来られた方からは、「おばあちゃんの家に来ているみたい」「昔の田舎の風が吹いている」と仰っていただけます。
堀内:コンセプトがしっかり伝わっていますね!
山口さん:最近は、若い子が昭和レトロなおしゃれを味わっています。素朴さがいいんでしょうね。オープン当初から通ってくださっているお客様の中には、カップルとして訪れ、やがて夫婦となり、今では子どもを連れて来てくれる方もいます。
堀内:そうやって何度も訪れてくださるということは、第二の実家のような温かさがあるんですね。
山口さん:そうですね。そういったお客様には、あの当時と変わっていないと驚かれます。
堀内:今後メニューや取り組みで挑戦していきたいことはありますか?
山口さん:私も高齢になってきて、新しいものに手を出すというよりも、既存のメニューや素材を大事にして、その姿勢を崩さないでやっていきたいと考えています。
堀内:最後に、山口さんにとっての「まじめ」とはなんですか?
山口さん: 料理への思いはもちろんですが、基本にあるのはお客様への接客や、細やかなこだわりをこれからもまじめに続けていきたいという気持ちです。大きなことはできなくても、お客様に対する小さな気遣いを大切にしていきたいと思っています。辞めたスタッフが店に気軽に食べに来てくれるのは、日々まじめに向き合う姿勢が伝わっているからかもしれません。
四国中央市の食材や人とのご縁を大切にしながら、温かな空気感に包まれる「山口里の店」。実は山口さんは横浜出身ですが、奥様のご縁で四国中央市へ移り住み、「来たからには、この土地を大事にしたい」という想いを胸に店を営んでこられました。その真摯な想いが、40年近くもの間、地域の人々に愛され続ける所以なのだと感じました。
山口里の店
愛媛県四国中央市寒川町309-1
電話番号:0896-24-4701
営業時間:11:00〜15:00(L.O.14:30)、17:00〜21:00(L.O.20:30)
定休日:月曜・火曜定休※祝日の場合は営業