米屋
創業130年の味。看板メニューの海鮮丼と愛媛の「さつま汁」
まじめな夫婦が切り盛りするのは「人が足を止める駅」だった
ライターの秋山です。今回は130年の歴史を体感できる定食屋さんが南予・内子町にあると聞き「米屋」さんに向かいました。
なんと創業130年!です。
長ければ良いというわけではありませんが、100年を超えてくる老舗には、その事実だけで期待値が自ずと上がります。一体どんな味が待っているのか・・!
調べによると「米屋」には母体となる鮮魚店があるとのこと。はやる気持ちを押さえて、まずはその鮮魚店「かつ盛」を訪ねました。
「米屋」の隣、交差点の一角にある「かつ盛」。明治時代の街並み保存地区の入り口にふさわしい、風情と老舗感のある店構えです。一歩踏み込めば
「らっしゃい!!」
と、威勢良く迎えられそう・・などと勝手な想像をしながら恐る恐る店内に入ると、4代目店主の酒井勝也さんが「こんにちは!」と優しく声をかけてくれました。
ん!?とても話しやすそうです!
ということで、勝也さんにお店について聞いてみました。
「かつ盛」の店名の由来は、初代店主・酒井かつ盛さんの名前から来ていること。その他、店頭に並ぶ地元ならではの「丸寿し」や「フカのみがらし」の説明を簡単に受け、勝也さんの案内で、早速お隣にある「米屋」を目指すことにしました。
・・と、「かつ盛」を出たところに歴史を感じる写真を発見!かつての「かつ盛」の様子です。
この写真の中で最年少と思しき方がこれから取材に向かう「米屋」店主で、「かつ盛」3代目店主の米雄さんだと、勝也さんが教えてくれました。
さてわずか10歩ほどで到着です。これが「米屋」だ!!
んっーーー、何でしょう!?早速気になる看板を発見しました。
後で店主に聞いてみようと思います。
暖簾をくぐると目に飛び込んできたのは、テーブルに置かれた輝かしい海鮮丼!
取材依頼の電話では海鮮丼「並」をお願いしたはずですが、目の前にあるのはさらに鰻が乗った海鮮丼「上」のようです。いきなりテンションは最高値に達します!
なるほどお店も130年もの歴史があると、取材もお手の物。すぐに食べられるよう、準備万端なのだなと感心しながら、厨房にいる店主・酒井米雄さんに声をかけました。
秋山:取材に伺いました。よろしくお願いします。
米雄さん:ほーね。ちょっとこれ見て。うちには沢山の芸能人が来てるから、写真飾っとるんよ〜。
早速美味しく頂けると思ったのも束の間、店内に飾られた芸能人の写真の数々を案内する米雄さん。導かれるまま見ていると、ふと一枚の写真に驚きました。あの悪◯商会さんではないかっ!!
秋山:悪◯商会さんとはどの様なご関係で?
米雄さん:近くにある内子座で公演があって、その時に仲良くなってもう何回も来てくれとるんよ。こっちは、はる◯愛さんにカミ◯リさん。カミ◯リさんの学くんの実家は鮮魚店でね〜・・
何とか理解しようと耳を澄ませて聞いてはいるのですが、コテコテの伊予弁と超が付く早口の米雄さん。会話全体の50%程度しか理解できません。この時点ですでに入店から30分が経過してしまいました。早くあの美味しそうな海鮮丼を食べたい!という気持ちをよそに、次は「趣味の品々が飾ってあるから」とお店の裏口に案内されました。
店の裏に所狭しと並べられた植物たち。これは米雄さんが仕事合間の趣味として、あちこちで拾ってきた花器をリサイクルして、野生植物を植えたコレクションの数々です。
ここからさらに趣味の話と内子町の歴史の話に花が咲き、一段落したのは入店から約60分が経過した時でした。
さすがにお腹が空いてきました。「そろそろ海鮮丼を〜」と言いかけたところで、米雄さんから「早く海鮮丼を食べたほうが良い」とのアドバイスが!
急いで店内に戻ります。
満を持して席に着き、いざ「米屋」看板メニューの海鮮丼に挑みます!
創業130年の老舗が誇る看板メニュー海鮮丼!しかも並ではなくて「上」!お腹が空いていたのもあり、勢いよく口の中に放り込みました。
んっまい!!
丼のお魚はその日の仕入れによって違うそう。この日は、鯛、鰆、サーモンなど6種類の肉厚で新鮮なお刺身が所狭しと乗っています。これで1500円・・大満足です!
さて実は米屋には看板メニューがもう一つ。それが「さつま汁定食」です。
さつま汁と聞くと、鹿児島の郷土料理で汁物を思い浮かべる人も多いかも知れませんが、愛媛のさつま汁は「ご飯モノ」なのです。
南予地方の郷土料理であるさつま汁。焼いた鯛の身と麦みそをすりつぶし、鯛のあらでとっただし汁で仕上げ、このさつま汁を具材と一緒にご飯の上にかけて食べます。
「米屋」でさつま汁を作っているのは、米雄さんの奥さんである美栄子さん。普段は「かつ盛」にいますが「米屋」が忙しいときにはお手伝いに来るそうです。
「米屋」でさつま汁が足りなくなると、米雄さんはすぐさま「かつ盛」にいる美栄子さんを呼び、さつま汁の追加を頼むとか。
秋山:どうして“さつま汁”って名前なんでしょうね?
美栄子さん:お客様から「これ(愛媛のさつま汁)は何でしょうね、鹿児島のさつま汁とも違うし、冷や汁とも違うし・・」って言われたけど・・わたしもわかりません(笑)
気になるので、さつま汁の名前の由来を調べてみました・・
「さつま」の名前の由来は諸説あり、薩摩国(鹿児島県)から伝わったという説や、だし汁がよくなじむよう茶碗によそったごはんを十字に切った見た目が、薩摩藩の島津家の家紋のようだからなどがあるようだ。また、夫が妻を助けてつくる、つまり妻を補佐するという意味の「佐妻」からという説などさまざまな由来があるがどれが真実かはっきりしていない。(農林水産省HPより抜粋)
・・なるほど、諸説あるようです。なにはともあれ食べてみましょう!
こんにゃく、きゅうり、ネギをのせて、その上からさつま汁をごはんが見えなくなるほど惜しみなくかける。果たしてお味は・・
うまい!!なんか、高級なシーチキンみたいな味・・
使っている食材は鯛とお味噌だけなのに、こんなにおいしいとは・・。優しい味なので、ご飯をさらさらとかき込んでしまいます!夏場に食べるにもいいかも?
海鮮丼もさつま汁も美味しかったです!ごちそうさまでした!
お腹がいっぱいになったところで、入店時に気になった看板について聞いてみました。
秋山:お店の前の看板に『五丁目の駅』ってあったんですけど、あれは何ですか?
美栄子さん:この人(米雄さん)が勝手につけた。
秋山:勝手につけたんですか(笑)「米屋」の住所が5丁目なのですか?
米雄さん:5丁目。(お店の前の道を)まっすぐ行ったら8丁目。ちょうど中心が5丁目でしょ。お店を始める時から決めてたんよ。この場所は上の道から下りてくる人も立ち止まる。目の前がお遍路道だから、その道を通る人も止まる。休憩所ということでみんなこの店で止まる。自分の家族の誕生日やクリスマスも、みんなここに集まる。みんなで焼肉したり。(交差点の)角のところにあって、みんなが止まるから駅。
美栄子さん:みんなが遊びにくるから駅。
交差点付近に店を構える「米屋」。お遍路さんなど多くの人が行き交うので、その人たちが安らげる場所を、という意味を込めて『五丁目の駅』と名付けるのはまだしも、看板にして掲げてしまうとは、なんとも大胆です。みんなが集い、憩える場所にしようという米雄さんの思いがこの看板から伝わってきます。さて『五丁目の駅』の意味はわかりましたが、では『楠館』って一体何?
美栄子さん:お店に一本楠を植えたから、この人が楠館って名前つけたんだけど、だぁれも楠館なんて言わん。
米雄さん:(苦笑)
茶目っ気のある米雄さんと美栄子さん夫妻によって営まれる、内子の人々の憩いの場「米屋」。それにしても130年間も変わらず、愛され続けているなんてすごい・・と思った矢先、衝撃の事実が判明しました。
米雄さん:ここはもう70から始めたんじゃけん。いろんな人の反対を押し切って。
秋山:70歳から始めたんですか?!
米雄さん:(家族の)反対おしきって。今もう78やけん。
秋山:じゃあお父さんが始める前は、米屋はなかった?
米雄さん:なかった。
秋山:あ、そういうこと!?
米雄さん:ここ(米屋)は、前は洋品店だった。で、たまたまぼくにお店をやらないかと話がきて。その時はまだ「かつ盛」でやらなきゃいけないことも多くて、家族みんなは反対。でも息子の勝也に「お前かつ盛引き継げ」って言って。
とんだリサーチミスでした!130年続いていたのは鮮魚店「かつ盛」で、「米屋」は創業8年だったのです。米雄さんは「かつ盛」3代目店主として50年間働き、70歳の時に「米屋」を始めようと思い立ったのでした。
秋山:70歳まで「かつ盛」を経営していたわけですが、なぜ新たに「米屋」を始めようと思ったんですか?
米雄さん:それはもう、おもしろいから。やりたいことをやりたい。ぼくは会社員じゃなくて個人事業主じゃけんね。ここへみんなで集まって。ええ仲間ができて、助け合いしたり。まちの活性化のためやね。
強い好奇心とまちの活性化を目指して、お店を立ち上げた米雄さん。楽しみながら仕事をするという米雄さんならではの“まじめ”さに、町の人々も共感してお店に活気があふれているように思います。
奥さんの美栄子さんは、ご主人の思い切った行動をどう感じたのでしょうか。
美栄子さん:本当は居酒屋にしたいって言ってたんよ。でもお店をすることには反対したの。最初から賛成したら、お店を全部手伝わないかんでしょ。反対しておけば、手伝うの少しでいいから。だから基本は「かつ盛」で、たまにこっち(米屋)を手伝ってるんだけど、魚が足りないって言われたり、さつま汁が足りないって言われたり、結局言うてくるから手伝うんだけど。こんなに大変ってわかっていたら、お嫁に来てないよ(笑)
愚痴をこぼしながら、なんだかんだと米雄さんを支える美栄子さん。そのやりとりからは、美栄子さんの米雄さんへの愛情と、お店に対するまじめさが垣間見えます。
大胆で行動力のある米雄さん、それを支え続けてきた美栄子さん。そんなお二人に「あなたにとっての“まじめ”」とは何か、聞きました。
米雄さん:どんな早くても市場に行って、“まじめ”に働いていたかなぁ
美栄子さん:お嫁にきてから、ずっとやっていることだから、お休みの日でもさつま汁準備したり、遊びもするけど、きちんと働きよるかな。
地元の人、お遍路さん、観光客の行き交う「米屋」。海鮮丼やさつま汁を美味しくいただくだけでなく、人と交流を楽しむ休憩所、「五丁目の駅」に足を停めて立ち寄ってはいかがでしょうか?
米屋
住所 :〒791-3301 愛媛県喜多郡内子町内子1970
電話番号:0893-44-6788
営業日:月・水~日曜日 11:00~14:00
定休日:火曜日